こんにちは。こころ社労士事務所の香川です。
「2歳未満のお子さんを育てながら時短勤務している社員がいるんですが、繁忙期に残業をお願いした月がありまして。育児時短就業給付金って、こういう場合も10%もらえるんですよね?」
先日、このようなご相談をいただきました。
結論からお伝えすると、
時短勤務中に残業などで、時短勤務を始める前の賃金に近い金額が支払われた場合、給付金の支給率は必ず10%になるわけではありません。
その月の賃金が、時短勤務を始めたときの賃金と比べてどのくらいの割合になるかによって、支給率が下がったり、場合によっては支給されなかったりします。
今回は、この少し複雑な仕組みを、できるだけ分かりやすく整理してご紹介します。
そもそも「育児時短就業給付金」とは?
まず、制度の基本を確認しておきましょう。
育児時短就業給付金は、2025年(令和7年)4月に創設された雇用保険の給付制度です。
2歳に満たない子を養育するために時短勤務を行い、その結果として賃金が低下した場合などに、一定の要件を満たすと支給されます。
この制度は、時短勤務によって減少した賃金を補うことを目的としています。
支給額は、原則として
「支給対象月に支払われた賃金 × 支給率」
で計算されます。
支給率は基本的には10%ですが、すべての方が一律10%になるわけではありません。
カギは「時短勤務前の賃金と比べて何%か」
支給率は、その月の賃金が「育児時短就業開始時賃金月額」(時短勤務を始めたときの賃金)に対して、何%に当たるかで決まります。
大きく分けると、次の3つの区分があります。
① 開始時賃金月額の90%以下
支給率は10%です。
つまり、支給対象月の賃金 × 10%が支給されます。
しっかり時短勤務によって賃金が下がっているケースですね。
② 開始時賃金月額の90%超~100%未満
ここが今回のポイントです。
残業や各種手当などによって賃金が時短勤務前の水準に近づくと、この区分に入り、支給率が10%より低く調整されます。
実際の計算式は少し複雑ですが、「賃金が時短勤務前の水準に近づくほど、支給率は少しずつ下がる」と理解していただければ十分です。
計算式は次のとおりです。
- 賃金率(A)=支給対象月に支払われた賃金 ÷ 育児時短就業開始時賃金月額 ×100
- 支給率(B)=9,000 ÷ 賃金率(A)-90
- 支給額=支給対象月に支払われた賃金 × 支給率(B)
③ 開始時賃金月額の100%以上
賃金が時短勤務前と変わらない水準まで戻っている場合は、
育児時短就業給付金は支給されません。
制度の目的が「減少した賃金を補うこと」であるため、賃金が下がっていない場合は給付の対象とならないのです。
数字で見てみましょう
【前提】育児時短就業開始時賃金月額:30万円
| その月の賃金 | 開始時賃金 との割合 |
区分 | 支給率 | 給付金 (月額) |
賃金+給付金 |
|---|---|---|---|---|---|
| 240,000円 | 80% | ① | 10% | 24,000円 | 264,000円 |
| 255,000円 | 85% | ① | 10% | 25,500円 | 280,500円 |
| 270,000円 | 90% | ① | 10% | 27,000円 | 297,000円 |
| 276,000円 | 92% | ② | 約7.83% | 21,600円 | 297,600円 |
| 285,000円 | 95% | ② | 約4.74% | 13,500円 | 298,500円 |
| 294,000円 | 98% | ② | 約1.84% | 5,400円 | 299,400円 |
| 297,000円 | 99% | ② | 約0.91% | 2,700円 | 299,700円 |
| 298,500円 | 99.5% | ② | 約0.45% | 不支給※ | 298,500円 |
| 300,000円 | 100% | ③ | - | 不支給 | 300,000円 |
※計算上は1,350円ですが、最低限度額(令和8年度:2,562円)以下のため不支給となります。
①90%以下
②90%超~100%未満
③100%以上
このように、賃金が時短勤務前の水準に近づくほど、支給率は下がり、最終的には支給されなくなります。
表の右端「賃金+給付金」を見ると、賃金が27万円(90%)を超えたあたりから、合計額はほとんど増えていないことが分かります。たとえば27万円から28万5,000円に残業で1万5,000円増えても、給付金が1万3,500円減るため、合計は1,500円しか増えません。
「支給限度額」と「最低限度額」にも注意
支給額を確認するときは、毎年見直される2つの限度額にも注意が必要です。
支給限度額(令和8年度:484,121円)
賃金と給付金の合計額が支給限度額を超える場合は、
「支給限度額-その月の賃金」
が支給額になります。
また、その月の賃金が支給限度額以上であれば、給付金は支給されません。
最低限度額(令和8年度:2,562円)
計算した支給額が最低限度額以下となる場合は、不支給となります。
なお、これらの限度額は毎年8月1日に見直されますので、申請の際は最新の金額を確認しましょう。
私が事業主のみなさまにお伝えしていること
この制度で私がいちばんお伝えしたいのは、会社だけでなく、時短勤務をしている社員の方にも仕組みを正しく伝えていただきたいということです。
育児時短就業給付金は、時短勤務によって減少した賃金を補うための制度です。
そのため、残業や手当などで賃金が時短勤務前の水準に近づけば、給付金が少なくなったり、支給されなくなったりすることがあります。
このことを知らないと、
「残業した月は、思っていたより給付金が少なかった」
「今月は給付金が支給されなかった」
と、社員の方が戸惑ってしまうかもしれません。
だからこそ、時短勤務の方に残業をお願いする場合は、
- 給付金への影響について事前に説明すること
- その残業が本当に必要か、頻度も含めて働き方を見直すこと
も大切です。
育児と仕事を両立することは、決して簡単なことではありません。
制度を正しく理解し、会社と社員が同じ情報を共有すること。
その積み重ねが、時短勤務の方も安心して働き続けられる職場づくりにつながると、私は考えています。
まとめ
今回のポイントを整理すると、
- 時短勤務中に残業などで賃金が上がっても、育児時短就業給付金の支給率は一律10%ではない
- 支給率は、時短勤務前の賃金に対する割合で決まる
- 90%以下なら支給率10%、90%超~100%未満は調整、100%以上は不支給
- 支給限度額(令和8年度:484,121円)を超えると調整または不支給となる
- 支給額が最低限度額(令和8年度:2,562円)以下の場合も不支給
- 支給限度額・最低限度額は毎年8月1日に見直される
「うちの時短社員、残業した月の給付金はどうなる?」
「育児時短就業給付金の申請を、間違いなく進めたい」
そんなご相談がありましたら、どうぞお気軽にお声がけください。
こころ社労士事務所では、育児・介護と仕事の両立支援制度の整備から、各種給付金の申請手続き、労務管理まで、会社の実情に合わせてサポートしています。
制度は少し複雑ですが、正しく理解すれば、育児と仕事の両立を支える心強い味方になります。
会社と働く方の双方が安心して制度を活用できるよう、一つひとつ丁寧に取り組んでいきましょう。
次回の「社労士が解説」も、どうぞお楽しみに。
(参考:厚生労働省「育児時短就業給付の内容と支給申請手続」令和8年8月1日時点版)