こんにちは。こころ社労士事務所の香川です。
「65歳になった社員が、年金を受け取り始めるそうなんです。となると、厚生年金保険はやめることになるんですよね?」このようなご相談をいただくことがあります。
「年金をもらう=年金制度から卒業」というイメージから、そう思われる方は少なくありません。
ですが、結論からお伝えすると、65歳になって老齢年金の受給を始めたことを理由に、厚生年金保険の資格を喪失することはありません。
適用事業所で加入要件を満たして働いている限り、引き続き社会保険への加入が必要です。
今回は、「働きながら年金を受け取る」ときの仕組みを、分かりやすく整理してご紹介します。
なぜ、年金を受け取っても厚生年金保険は続くの?
まず押さえておきたいのが、「年金を受け取ること」と「厚生年金保険に加入すること」は別の制度であるということです。
厚生年金保険は、適用事業所で加入要件を満たして働く70歳未満の方が加入する制度です。
そのため、65歳で老齢年金の受給を始めても、加入要件を満たして働いている限り、厚生年金保険の被保険者であり続けます。
つまり、「年金を受け取る立場」と「厚生年金保険に加入する立場」は同時に成り立ちます。
そのため、年金を受け取りながら厚生年金保険料を納めることになりますが、納めた保険料は将来の年金額に反映される仕組みになっています。
ただし、「在職老齢年金」により年金が調整されることがあります
ここが、もう一つ押さえておきたいポイントです。
働きながら老齢厚生年金を受け取る場合は、在職老齢年金の仕組みにより、老齢厚生年金の全部または一部が支給停止となることがあります。
仕組みは、次のとおりです。
賃金(賞与を含む1か月あたりの額)と、老齢厚生年金(1か月あたりの額)の合計が一定の基準額を超えると、その超えた額の2分の1が老齢厚生年金から支給停止されます。
「年金がなくなる」のではなく、在職中は受給額が調整される仕組み、と考えると分かりやすいでしょう。
ここで、ぜひ知っておいていただきたいことが二つあります。
① 支給停止の対象は「老齢厚生年金」だけ
在職老齢年金で調整されるのは、老齢厚生年金だけです。
老齢基礎年金(国民年金部分)は対象外ですので、在職中も原則として満額支給されます。
② 退職すると支給停止の調整は終了します
在職老齢年金による支給停止は、厚生年金保険の被保険者として働いている間の制度です。
退職して被保険者でなくなると、この支給停止の調整も終了します。
【令和8年4月改正】支給停止の基準額が65万円へ引き上げられました
在職老齢年金については、令和8年(2026年)4月から大きな改正が行われました。
これまで「働くと年金が減ってしまう」と考え、就労を控える方も少なくありませんでした。
そこで、高齢者が安心して働き続けられるよう、支給停止の基準額が引き上げられています。
| 年度 | 支給停止調整額 |
| 令和7年度 | 51万円 |
| 令和8年度(2026年4月~) | 65万円 |
つまり、賃金と老齢厚生年金の合計額が月65万円以下であれば、老齢厚生年金は支給停止されません。
これまでよりも、働きながら年金を受け取りやすい制度へと見直されたといえます。
「働くと損」とは言い切れません
ご相談を受けていて、私がいちばんお伝えしたいのが、ここです。
「年金が止まるなら、働くだけ損なのでは?」
そのように感じる方もいらっしゃいます。
ですが、必ずしもそうとは言えません。
理由は二つあります。
① 収入全体で見ることが大切です
年金の一部が支給停止となっても、その分、賃金を得ています。
そのため、収入全体で見れば、必ずしも「損をする」とは言えません。
② 働いた分は将来の年金額にも反映されます
65歳以降も厚生年金保険に加入して働くと、納めた保険料に応じて年金額が増えていきます。
在職定時改定という仕組みにより、毎年1回、働いた実績が年金額に反映されます。
目先の支給停止額だけを見るのではなく、長い目で考えることも大切です。
私が事業主のみなさまにお伝えしていること
人生100年時代といわれる今、65歳を過ぎても元気に活躍される方が増えています。
長年培ってこられた経験や技能は、会社にとってかけがえのない財産です。
だからこそ私は、事業主のみなさまに、「在職老齢年金の仕組みを正しく理解し、働く社員の方へ正確に伝えてあげてください」とお伝えしています。
「働くと年金が減るから」と誤解したまま就労を控えてしまうのは、ご本人にとっても、会社にとっても、とてももったいないことです。
制度を正しく知ることで、安心して働き続けられる方が増えれば、会社にとっても大きな力になります。
制度を味方につけながら、経験豊かな方々が長く活躍できる職場づくりを進めていきたいですね。
まとめ
今回のポイントを整理すると、
- 65歳で老齢年金を受け取り始めても、厚生年金保険の資格は喪失しない
- 適用事業所で加入要件を満たして働く70歳未満の方は、引き続き厚生年金保険に加入する
- 在職老齢年金により、老齢厚生年金の全部または一部が支給停止となることがある
- 老齢基礎年金は支給停止の対象外
- 令和8年4月から、支給停止の基準額が51万円から65万円へ引き上げ
- 支給停止があっても、収入全体や将来の年金額まで含めて考えることが大切
制度は少し複雑ですが、正しく知れば、安心して働き続けるための心強い味方になります。
「うちのベテラン社員、働くと年金はどうなる?」
「65歳以降の社会保険の取扱いを、一度きちんと確認しておきたい」
そんなご相談がありましたら、どうぞお気軽にお声がけください。
こころ社労士事務所では、高齢者雇用に関する社会保険の取扱いから、継続雇用制度の整備、労務管理まで、会社の実情に合わせてサポートしています。
なお、個別の年金額や受給見込額などの詳しいご相談は、お近くの年金事務所や街角の年金相談センターもぜひご活用ください。
次回の「社労士が解説」も、どうぞお楽しみに!