こんにちは。こころ社労士事務所の香川です。
「今年は賃上げをしようと思うんですが……ベースアップと定期昇給って、何が違うんでしょう?
「ニュースで『ベア』ってよく聞くけど、うちの毎年の昇給とは別物なんですか?」
賃金のご相談のなかで、こうした質問をいただくことがあります。
最近は物価の上昇や人材確保の難しさもあって、賃上げについて考える機会が増えた経営者の方も多いのではないでしょうか。
ひと口に「賃上げ」といっても、ベースアップと定期昇給では、その意味や仕組みが異なります。
そして、この違いを理解しておくことは、会社の賃金制度を考えるうえで、とても大切です。
今回は、ベースアップと定期昇給の違いと、会社として押さえておきたいポイントを、分かりやすく整理してお伝えします。
ベースアップと定期昇給、何が違うの?
まずは、基本的な違いから確認しておきましょう。
ベースアップ(ベア)とは、会社の基本給などの賃金水準そのものを引き上げることです。
例えば、物価の上昇や世間の賃金相場などを踏まえて、会社の基本給を全体的に引き上げるようなケースです。
一方、定期昇給(定昇)とは、会社が定めた賃金制度に基づいて、一定の時期に行う昇給のことです。
勤続年数や年齢、職務等級、人事評価などに応じて、賃金表に沿って昇給する仕組みが代表的です。
つまり、
「賃金水準そのものを引き上げる」のがベースアップ。
「会社の昇給ルールに沿って賃金を上げる」のが定期昇給。
まずは、この違いを押さえていただければと思います。
3つの視点で整理してみましょう
ベースアップと定期昇給の違いは、「目的」「対象者」「実施方法」の3つの視点で見ると、より分かりやすくなります。
① 目的 ― 何のために賃金を上げるのか
ベースアップは、会社の賃金水準そのものを引き上げることが目的です。
例えば、物価が上がっていることへの対応や、人材確保のために他社との賃金水準の差を縮めたい場合などが考えられます。
会社全体の賃金水準を見直す、というイメージですね。
一方、定期昇給は、会社が定めた昇給制度に基づいて、個々の社員の賃金を引き上げるものです。
勤続年数に応じて昇給する制度もあれば、職務等級や人事評価に応じて昇給額が決まる制度もあります。
社員の経験や成長、役割の変化などを賃金に反映する仕組みとして設けられていることが多いですね。
② 対象者 ― 誰の賃金が上がるのか
ベースアップは、会社の賃金水準を引き上げるものですが、必ずしも全社員が同じ金額や割合で昇給するとは限りません。
例えば、全社員の基本給を一律に引き上げる場合もあれば、若手社員や特定の等級を中心に賃金水準を見直す場合もあります。
対象者や引上げ方法は、会社の方針や制度設計によって異なります。
一方、定期昇給は、会社が定めた昇給条件を満たす社員が対象になります。
勤続年数や等級、人事評価などによって、昇給額が異なる場合もあります。
ただし、定期昇給だからといって、必ず一人ひとり異なる金額になるわけではありません。
同じ条件の社員であれば、同じ金額が昇給する制度もあります。
③ 実施方法 ― どのように賃金を上げるのか
ベースアップでは、基本給を一定額引き上げたり、賃金表そのものを改定したりする方法などがあります。
例えば、
- 「基本給を一律5,000円引き上げる」
- 「賃金表の各等級の金額を3%引き上げる」
といった方法です。
一方、定期昇給は、会社の賃金規程などに定められたルールに基づいて実施します。
例えば、毎年4月に昇給の機会を設け、勤続年数や人事評価などを踏まえて昇給額を決定する、といった仕組みです。
ただし、定期昇給の制度があるからといって、必ず毎年全員の賃金が上がるとは限りません。
昇給の有無や金額は、会社が定めた規程や条件によって異なります。
表で見ると、こうなります
ここまでの違いを整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | ベースアップ | 定期昇給 |
|---|---|---|
| 目的 | 賃金水準そのものの引上げ | 賃金制度に基づく個人の昇給 |
| 主な判断要素 | 物価、賃金相場、経営状況など | 勤続年数、年齢、等級、評価など |
| 対象者 | 会社が定めた対象者 | 昇給条件を満たす社員 |
| 実施方法 | 基本給の引上げ、賃金表の改定など | 賃金規程や昇給ルールに基づく |
| 実施時期 | 経営判断などにより決定 | 定められた時期に実施することが一般的 |
大きな違いは、「会社の賃金水準を見直すのか」「決められた昇給ルールに沿って個人の賃金を上げるのか」という点です。
ベースアップと定期昇給は、同時に行うこともあります
例えば、ある社員の基本給が25万円だったとします。
今年、会社が次のような賃上げを実施することになりました。
- 定期昇給:5,000円
- ベースアップ:5,000円
この場合、基本給は次のようになります。
250,000円 + 5,000円 + 5,000円 = 260,000円
合計すると、月額1万円の賃上げです。
社員から見れば「基本給が1万円上がった」ということですが、会社としては、その内訳に異なる意味があります。
定期昇給の5,000円は、会社の昇給制度に基づくもの。
ベースアップの5,000円は、賃金水準そのものを引き上げるためのもの。
同じ1万円の賃上げでも、その中身は違うのです。
※これは説明のための一例です。実際の計算方法や賃金表への反映方法は、会社の制度によって異なります。
なぜ、この違いを区別することが大切なのか
ここが、私がいちばんお伝えしたいところです。
「どちらも賃金が上がるのだから、分けて考えなくてもいいのでは?」
そう思われるかもしれません。
ですが、会社の賃金制度を考えるうえでは、この2つを区別しておくことに大きな意味があります。
① 人件費の見通しを立てやすくなる
定期昇給は、あらかじめ制度が整っていれば、ある程度の昇給額を見込むことができます。
一方、ベースアップは、物価や賃金相場、会社の経営状況などを踏まえて検討することが一般的です。
どちらも、基本給を引き上げれば、その後の人件費に影響します。
特に基本給の引上げは、毎月の給与だけでなく、賞与や残業代、社会保険料などにも影響する場合があります。
だからこそ、「今年はいくら賃上げするか」だけでなく、「その賃上げを来年以降も続けられるか」まで考えておくことが大切です。
② 社員への説明が分かりやすくなる
もう一つ大切なのが、社員への伝え方です。
例えば、同じ月額1万円の昇給でも、
「物価の上昇などを踏まえて、会社として基本給の水準を引き上げました」
と説明する場合と、
「この1年間の成長や仕事への取り組みを評価して、昇給額を決定しました」
と説明する場合では、社員に伝わる意味が違います。
もちろん、定期昇給が必ず人事評価によるものとは限りません。
勤続年数に基づく昇給であれば、その制度の考え方を伝えることが大切です。
会社が何を考えて賃金を上げたのか。
その理由を丁寧に説明することで、社員も昇給の意味を理解しやすくなります。
せっかく会社が人件費を増やす決断をしたのですから、その思いが社員に伝わるようにしたいですね。
私が事業主のみなさまにお伝えしていること
賃上げのご相談を受けていて私が感じるのは、昇給は「いくら上げるか」と同じくらい、「どう伝えるか」が大切だということです。
賃金を上げることは、会社にとって決して簡単なことではありません。
原材料費や光熱費など、さまざまなコストが上がるなかで、人件費を増やすという決断には、経営者としての覚悟も必要だと思います。
だからこそ、私は、せっかくの賃上げを「今年も給与を上げました」だけで終わらせてほしくないのです。
物価の上昇に対応するためなのか。
社員の成長や頑張りに応えるためなのか。
これからの会社を支える人材に、長く働いてもらうためなのか。
会社が賃金を上げる理由には、その会社が大切にしている考え方が表れます。
もちろん、社員にとっては、実際にいくら給与が上がるのかも大切です。
ですが、その金額に込められた会社の考え方まで伝えることができれば、賃上げは単なる給与改定以上の意味を持つのではないでしょうか。
私は、賃金制度は、会社が社員に何を期待し、何を大切にしているかを映す「鏡」のようなものだと思っています。
だからこそ、ベースアップと定期昇給の違いを理解したうえで、自社の賃金制度のなかで、それぞれをどう位置づけるのか。
ぜひ、この機会に考えていただきたいと思います。
まとめ
今回のポイントを整理します。
- ベースアップは、会社の基本給などの賃金水準そのものを引き上げること
- 定期昇給は、会社が定めた賃金制度に基づいて、一定の時期に行う昇給のこと
- ベースアップは、必ずしも全社員一律の金額・割合で実施するものではない
- 定期昇給は、人事評価だけでなく、勤続年数や年齢、等級などに基づく場合もある
- 両者を区別することで、人件費の計画や社員への説明が分かりやすくなる
- 昇給は「いくら上げるか」だけでなく、「なぜ上げるのか」「どう伝えるか」も大切
賃金制度の見直し、お手伝いします
「毎年昇給しているけれど、明確なルールがない」
「ベースアップを考えているけれど、今後の人件費が心配」
「社員の成長や頑張りを、もっと賃金に反映できる仕組みを作りたい」
そんなお悩みがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
こころ社労士事務所では、賃金制度の設計や賃金規程の整備、人事評価制度との連動など、会社の実情に合わせたサポートを行っています。
「賃金のことを、気軽に相談できる社労士がいる」
それだけでも、経営者の方にとって大きな安心につながると思います。
継続的な労務管理や賃金制度の見直しについてサポートをお考えの方は、ぜひ顧問契約のご案内をご覧ください。
また、「まずは自社の賃金制度について相談してみたい」という方も歓迎しています。
小さな疑問でも構いません。お気軽にお問い合わせください。
賃金制度は、会社の経営を支える仕組みであると同時に、社員の成長や働きがいにもつながる大切な制度です。
会社の経営と、そこで働く一人ひとりの未来。
その両方を大切にしながら、納得感のある賃金制度を考えていきましょう。
次回の「社労士が解説」も、どうぞお楽しみに。
社会保険労務士法人こころ社労士事務所