髪の毛を染めたことで解雇は可能か?

大阪府茨木市「社会保険労務士法人こころ社労士事務所」の香川昌彦です。
今回は「髪の毛を染めたら解雇できるのか?」をテーマに考察してみたいと思います。

結論: 髪の色を理由とした解雇は難しい

いきなり結論になってしまいますが、髪の毛を派手に染めた従業員を解雇することは、法的には非常に難しいです。以下にその理由を詳しく解説します。

業務に関連する容姿制限の合理性

会社が従業員の髪色や容姿について制限を設ける場合、それが業務に関連していることが必要です。また、その制限が従業員の私生活上の自由を不当に制限するものであってはなりません。例えば、接客業などで顧客に対する印象が重要な業種では、一定の容姿制限が合理的とされることがあります。

容姿に関する苦情や店舗経営への影響

店舗経営において、容姿に関するルールを定めることは可能ですが、そのルールが合理的であるためには、実際に容姿に関する苦情が寄せられるなど、経営に不利益が生じていることが必要です。単にルールを定めたからといって、従業員がそれに従わない場合に解雇することは難しいです。

解雇の客観的合理性と社会通念

解雇は、客観的合理性を欠き、社会通念上相当でなければ権利濫用として無効(労働契約法第16条)となります。さらに、アルバイトなどの有期労働契約の場合、契約期間の途中で解雇するためには、やむを得ない事由が必要です。

判例の参考: 福岡(トラック運転者)髪染解雇事件(福岡地裁小倉支部 – 平成9年(ヨ)第285号)

「福岡(トラック運転者)髪染解雇事件」では、派手な髪色を理由に解雇されたトラック運転手が、解雇の無効を求めて訴訟を起こしました。この事件の判例では、以下のように判断されました。

事件の概要

この事件では、酒類の製造販売や一般貨物運送、ガソリンスタンド経営などを行っている会社のトラック運転手が派手な黄色の髪色に染めて出社したところ、上司から髪を元の色に戻すように指導されました。債権者である従業員はこれに従わず、最終的に解雇されました。債権者はこの解雇が無効であるとして訴訟を起こしました。

具体的な経緯

  •  1997年6月、債権者は派手な黄色に髪を染めて出社しました。
  •  専務や課長は、取引先に悪い印象を与える恐れがあるとして、債権者に髪を元の色に戻すように指導しました。
  •  債権者はこれに従わず、髪の色のことで会社が干渉するのはおかしいと反論しました。
  • その後も債権者の髪色は変わらず、課長は散髪代を援助するから2、3日以内に髪を元の色に戻すように求めましたが、債権者は応じませんでした。
  •  最終的に、専務は債権者に対し、髪を黒く染め、始末書を提出するよう命じましたが、債権者はこれを拒否しました。
  • 専務はその場で債権者に対し、諭旨解雇を通告しました。

裁判の結果

裁判所は、以下の理由からこの解雇を無効と判断しました。

  1.  秩序維持の必要性:
    企業は秩序維持のために労働者に規制や指示を行うことができるが、その権限には限界があり、労働者の人格や自由に関する事柄についての制限は、企業の運営上必要かつ合理的な範囲内でなければならない。
  2.  髪色の制限
    債権者は白髪染めで髪を黒く染め直すなどの努力をしましたが、会社側は自然色の黒髪以外は許さないという過剰な態度を取り続けました。この態度は合理的とは言えず、債権者の反抗的な態度も会社側の頑なな態度を考慮すると、必ずしも債権者のみに責任があるとは言えません。
  3. 始末書の提出拒否:債権者が始末書を提出しなかったことも、社内秩序を乱した行為とまでは言えず、解雇の理由にはならないと判断されました。

以上の理由から、裁判所はこの解雇は解雇権の濫用として無効であると判断しました。

まとめ

従業員の髪色を理由に解雇することは、以下の点を考慮すると非常に難しいと言えます。

  • 容姿制限が業務に関連していること。
  • 容姿に関する苦情や経営への具体的な不利益があること。
  • 解雇が客観的に合理的であり、社会通念上相当であること。

文中でも触れたように、業種によっては解雇が認められる場合があります。ただし何度も書くように「客観的合理的かつ社会通念上相当」である必要があります。
ただし、基本的には、従業員の髪色を理由とした解雇は、法的には認められにくいということを、会社側も十分に理解する必要があるでしょう。

香川 昌彦

香川 昌彦

社会保険労務士法人こころ社労士事務所 代表
全国社会保険労務士連合会(登録番号第27190133号)
大阪府社会保険労務士会(会員番号第22072号)
大阪府中小企業家同友会 三島支部 情報化広報委員長
茨木商工会議所専門家相談事業 専門家相談員
大阪府働き方改革推進支援・賃金相談センター 訪問コンサルティング専門家
関西圏雇用労働相談センター 労働相談員

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