大阪府茨木市「社会保険労務士こころ社労士事務所」の香川昌彦です。2024年は、中小企業の人事労務管理に大きな影響を与えるいくつかの重要な法改正が施行されます。これらの改正に適切に対応するためには、事前の準備が欠かせません。
以下に、2024年に施行される主要な法改正とその対応策について、中小企業の社長向けにわかりやすく解説します。
1. 労働時間の上限規制の猶予期間終了
2024年3月31日に、建設業、自動車運転の業務、医師の時間外労働の上限規制の猶予期間が終了しました。これにより、これらの業種でも労働基準法で定められた「時間外労働の上限規制」が適用されます。
具体的な規制内容
年間720時間以内
時間外労働は年間720時間以内とします。
月100時間未満
時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満でなければなりません。
月平均80時間以内
2〜6か月の平均が1か月あたり80時間以内に収まるようにします。
企業が対応すべきこと
まずは、該当する業種の企業は、従業員の労働時間を正確に把握し、適切な労働時間管理を行う必要があります。特に、建設業や自動車運転の業務を行う企業は、従業員の勤務実態を把握し、必要に応じて労働時間の短縮や労働条件の見直しを行いましょう。
2. 労働条件通知書の記載事項追加
2024年4月1日から、労働条件通知書に記載しなければならない事項が追加されました。
具体的な改正内容
就業場所と業務内容
雇用契約締結時および有期雇用契約の更新時に、「就業場所」や「業務内容の変更の範囲」を明示する必要があります。
無期転換申込権の明示
無期転換申込権が発生する場合、その都度無期転換後の労働条件を明示しなければなりません。
企業が対応すべきこと
自社で使用している労働条件通知書の内容を精査し、新たに設けられた表示事項を追加しましょう。厚生労働省の「モデル労働条件通知書」を参考に、自社のテンプレートを整備することをお勧めします。従来の雛形では法令違反となるます。ただし労働条件通知書の作成はデリケートであり専門的であるので社会保険労務士に依頼するのが確実です。
3. 裁量労働制の導入・継続に関する手続き変更
2024年4月1日から、裁量労働制の導入・継続に関する手続きが変更されました。
具体的な改正内容
同意手続きの変更
専門業務型裁量労働制では、従業員本人の同意を得ることや、同意しなかった場合に不利益取り扱いをしないことを労使協定に定める必要があります。
定期報告の頻度
企画業務型裁量労働制では、労働基準監督署への定期報告の頻度が変更されます。具体的には、6か月に1回の頻度で定期報告が必要となります。
企業が対応すべきこと
新たに裁量労働制を導入する企業は、導入を適用する日までに新しいルールに対応した協定届・決議届を労働基準監督署に届け出る必要があります。既存の裁量労働制を継続する企業も、2024年3月31日までに新ルールに対応した手続きを行なう必要がありますので、まだの企業は速やかに行なってください。
4. 障害者雇用率の引き上げと短時間労働者の算定変更
2024年4月1日から、障害者の法定雇用率が引き上げられました。また、精神障害者や重度障害者の短時間労働者も算定対象に含まれるようになります。
具体的な改正内容
法定雇用率の引き上げ
民間企業の法定雇用率が段階的に引き上げられ、2024年4月から2.5%、2025年7月から2.7%になります。
短時間労働者の算定:
精神障害者や重度障害者の場合、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の短時間労働者も0.5人として算定できるようになります。
企業が対応すべきこと
自社の障害者雇用率を確認し、必要な雇用人数を把握します。特に、精神障害者や重度障害者の短時間労働者の算定方法に注意し、採用計画を立てましょう。さらに、障害者が働きやすい職場環境を整備するため、バリアフリー化や業務内容の見直しなどの対策を講じることが重要です。
5. 短時間労働者に対する社会保険の適用拡大
2024年10月1日から、短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が拡大されます。
具体的な改正内容
適用範囲の拡大:
従業員数が常時51人以上の企業も、短時間労働者に対する社会保険の適用対象となります。適用拡大の条件をよく確認し、対象となる従業員を把握しましょう。
企業が対応すべきこと
社会保険の加入対象となるパート・アルバイト従業員を洗い出し、各従業員の労働条件を確認します。リスト化して、手続きに漏れがないようにしましょう。また、社会保険料の企業負担分を事前に概算し、資金繰りへの影響を把握しておきます。対象者に法改正の趣旨やメリット・デメリットを説明し、納得感を持ってもらうための対応を行いましょう。
まとめ
2024年の法改正は、中小企業の人事労務管理に大きな影響を与えます。これらの改正に対応するためには、事前の準備が欠かせません。法改正の内容を正確に把握し、適切な対応策を講じることで、企業の労務管理の適正化と従業員の働きやすい環境を整えることができます。社会保険労務士に相談して、きちんと対応だきているかどうかチェックされてはいかがでしょうか?
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