大阪府茨木市「社会保険労務士法人こころ社労士事務所」の香川昌彦です。
以前、「自分が休んだら仕事は回らないのか?」という記事を執筆しました。
自分が休んだら仕事は回らないのか?~会社の仕組み~
この記事は反響が大きく、世間の関心の高さがうかがわれます。
今回は、ではどうやったら自分が休んでも仕事が回るのかについて、給与計算を一例に挙げて説明しようと思います。
給与計算担当のAさんがいるとします。Aさんはいつも「給与計算は難しいから私がいないと仕事が回らない」と言っています。上司を含め周りの社員も「給与計算は難しいからAさんにしかできないんだな」と思っています。
この場合の会社の状況はこんな感じです。
- 給与計算:Aさんの仕事
- 給与計算:難しい
よって - 給与計算はAさんにしかできない
これではAさんは休みようがないです。
問題点はシンプルで「給与計算とは具体的にはどんな仕事(要素)で構成されているのか」がAさんを含め誰もわかっていないことです。
Aさんを含め、というのがポイントです。自分の仕事の工程を把握しているようで把握していないのです。こういった状態を「属人的」と呼びます。「ブラックボックス化している」とも表現できるでしょう。
では、具体的にどうすればよいのでしょうか?
まず給与計算業務を分解するところから始めます。
- 日々の仕事:社員の異動(結婚・出産等)を把握しシステムに反映させる。
- 勤怠を締める:出勤簿に問題がないかどうかチェックする。問題があれば本人や上司に確認して修正。出勤日数、労働時間等を集計する。
- 給与の変更を確認する:昇給や降給を確認し、変更があれば反映させます。イレギュラーな手当がないか確認します。
- 給与計算システムに反映させる:勤怠データを給与計算システムに入力します。
- 賃金台帳・給与明細を作成する:紙ベース、PDF、エクセル等、会社で決まっている形式で出力します。
- 給与明細の配布:印刷して拠点に送付したり、WEB明細システムに給与計算の結果を反映させます。
あとはそれぞれの注意点を洗い出していきます。
- 社員の異動を確認・給与計算システムに反映:住民票・会社書式の異動届出書・扶養控除等申告書を入手。内容が一致していることを確認する。
- 勤怠を締める:打刻漏れ、イレギュラーの勤怠(研修・電車遅延等)を確認する。
こんな感じです。
ここまでくれば、あとの細かい注意点を書き足していけば、マニュアルは完成します。
難しいことには変わりはありませんが、できないということはありません。こうしておけば、たとえAさんが途中過程で休んでも、どこまで何をやったかを記録しておけば他の社員でも対応できます。
もちろんマニュアル化はこんな簡単にはできませんが、それぞれの仕事を可視化していけば、みんなが休みやすくなります。
副産物として大きな成果も得られます。それは「無駄な作業の洗い出しと業務効率化」です。属人化していることの弊害は「わたし流」の仕事をしていて、無駄な作業がかなりの部分を占めていることです。
給与計算の例で説明すると、勤怠データを給与計算システムに反映させる際に、システムで自動的に反映させることができるのにもかかわらず、出勤簿をプリントアウトして一つずつ手入力していたりします。時間がかかるし、手間だし、間違いやすいし、何もいいことがありません。Aさんが「ここが給与計算の一番難しいところで大切なところなんですよ!」と得意気になっている場合もあります。
仕事の中身が明らかになり、仕事が効率化すれば、休みが取りやすくなる、というシンプルで確実な方法です。
ところが何故かこれが進まない会社は多いです。理由は以前の記事で述べたように、自分の存在価値を守るために仕事を握りしめて、他の人にできないようにする、という意識が働くからです。
ブラックボックスになっているから自分勝手に仕事ができます。誰もチェックできないのです。自分の仕事を見られたくないという意識がある方は非常に多いです。
自分の価値を周りの人に認めてもらうために「難しいから私しかできない」としている方が多いのです。
それぞれの社員がそれぞれの仕事を握りしめ「難しい、忙しい、休めない」となっている会社は果たして良い会社でしょうか?
自分が休んでも仕事が回る会社は、それぞれの社員が自分の保身だけを考えるのではなく、みんなの幸せをみんなが考える会社です。
それが「良い企業風土」の一つのあり方ではないでしょうか?
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