【社労士が解説】経営者が知っておくべき「同一労働同一賃金」の基本知識

こころ社労士事務所の香川です。
今回は皆様がよく耳にする「同一労働同一賃金」について詳しく解説します。

同一労働同一賃金は、2021年に短時間・有期雇用労働法が全面施行されてから、日本の労働環境に重要な影響を与えています。
これは、企業が非正規雇用の労働者に対して、正社員と不合理な待遇差を設けないよう義務付けるものです。
特に、雇用形態が異なるために待遇差が存在する場合、それが合理的であるかどうかが問題になります。
ここでは、同一労働同一賃金の基本理念や導入に際しての具体的なポイントを整理し、企業が持つべき視点をわかりやすく解説します。

1. 同一労働同一賃金とは?その目的と意義

同一労働同一賃金の目的は、企業における正社員と非正規社員(短時間や有期契約労働者)との不合理な待遇差を解消し、公平な労働環境を実現することです。
従来、企業によっては正社員とパート・アルバイトや契約社員に対して、明確な基準なく待遇差を設けている場合がありました。
しかし、これは非正規労働者の不満を生むだけでなく、社会全体の労働環境改善にも逆行するため、法律が改正されました。
たとえば、正社員とほぼ同等の業務をこなしているパートタイム労働者にボーナスが支給されない、あるいは業務評価に基づく昇給が行われない場合は、企業にとってリスクのある不公平な待遇とみなされることが増えています。

2. 同一労働同一賃金の基本的な考え方

同一労働同一賃金の取り組みにおいて重要なのが「均等待遇」と「均衡待遇」という二つの概念です。

均等待遇: 同じ企業内で、正社員と非正規社員が同じ業務内容、同じ責任を担っている場合、両者の待遇は全く同等であることが求められます。たとえば、同じ部署で同じ業務を行っているにも関わらず、正社員には通勤手当が支給されて非正規社員には支給されない場合は、均等待遇に反する可能性があります。

均衡待遇: 均衡待遇とは、仕事内容や責任に多少の違いがある場合に、それらの差に応じた合理的な待遇差を認めるという考え方です。例えば、非正規社員が一部の業務のみを担当し、正社員が包括的に責任を負う場合には、その範囲に応じて待遇差が設けられることも許容されます。

企業としては、どのような待遇差が適切かを判断するために、業務内容や責任範囲を明確に定義し、それに基づいた待遇体系を整備することが重要です。

3. 同一労働同一賃金の対応において重要な考慮要素

企業が同一労働同一賃金を進める際に考慮するべき要素として、主に次の三つが挙げられます。

職務内容: 各労働者が具体的にどのような業務を行っているのかを把握し、その内容に応じた待遇を設定することが求められます。

職務内容・配置の変更範囲: 労働者が配置転換などにどの程度対応可能かという点も考慮要素です。例えば、短期間の契約社員には異動を求めにくいため、フルタイムの正社員と同じ対応が難しい場合があるでしょう。

その他の事情: 例えば、特定の資格が必要な業務や、専門的なスキルが求められる職種では、業務内容が類似していても、スキルや資格の保有状況に応じて合理的な待遇差を設けることが考慮されます。

4. 同一労働同一賃金対応の具体的ステップ

企業が実際に同一労働同一賃金の取り組みを進める際には、以下のステップに沿って対応を進めると効果的です。

  1. 社内の雇用形態の把握: まず、自社の正社員や契約社員、パート社員などの雇用形態を整理し、各雇用形態での待遇の違いを確認します。
  2. 待遇差の有無を確認し、必要に応じて見直す: 正社員と非正規社員の間で待遇差が存在する場合、その差が合理的かどうかを検討します。不合理な待遇差が見つかった場合は、その改善策を検討します。
  3. 説明義務の準備: 非正規社員から待遇に関する説明を求められた場合、企業は説明する義務があります。そのため、待遇差の理由や詳細を文書化し、必要に応じて説明できるよう準備しておきましょう。就業規則や待遇内容をまとめた資料を作成し、面談時に活用することが推奨されます。

5. 説明義務とリスク管理

同一労働同一賃金におけるもう一つの重要な義務が、「待遇差の説明義務」です。
非正規社員から説明を求められた際、企業は説明を行わなければなりません。この義務を怠ると、労働者から損害賠償請求を受ける可能性があるため、経営者は慎重な対応が求められます。
説明義務において特に注意すべきポイントは以下の通りです。

比較対象となる通常の労働者の選定: 非正規社員と比較する際には、職務内容や責任が最も近い正社員を選ぶことが求められます。

待遇差の内容と理由の明確化: なぜ待遇差が存在するのか、その理由を詳細に説明できるようにしておく必要があります。たとえば、通勤手当の支給基準や、賞与の評価基準などが挙げられます。

説明の方法: 資料を用意し、文書化した説明が推奨されます。特に、待遇内容やその差異の理由を明示した資料があると、労働者に対して説得力を持たせることができます。

6. 企業が抱えるリスクと対応の重要性

最終的に待遇差が不合理であるか否かは司法が判断することもありますが、企業としては先んじてリスクを減らす努力が求められます。
同一労働同一賃金に基づく訴訟が増加傾向にあるため、各企業が対応を遅らせたり、見直しを怠ることはリスクを招く要因となります。

企業が自ら取り組むべき具体策には、待遇の整備、雇用形態ごとの職務内容の明確化、従業員への丁寧な説明が含まれます。
社内での公平性が保たれることで、従業員の働きやすい環境が整い、企業イメージの向上や人材の定着に寄与します。

結論

同一労働同一賃金は、単なる制度対応にとどまらず、企業文化や組織の在り方を考え直すきっかけともなり得ます。
制度に則った対応を進めることで、企業としての信頼性も向上し、長期的な企業成長に貢献します。
企業がこの制度の目的を理解し、積極的に対応することで、職場全体の公平性と働きやすさが向上することを目指しましょう。

「どこから手をつければよいかわからない」「もう少し詳しく知りたい」等を思われた方は、お気軽にこころ社労士事務所までご相談ください。

香川 昌彦

香川 昌彦

社会保険労務士法人こころ社労士事務所 代表
全国社会保険労務士連合会(登録番号第27190133号)
大阪府社会保険労務士会(会員番号第22072号)
大阪府中小企業家同友会 三島支部 情報化広報委員長
茨木商工会議所専門家相談事業 専門家相談員
大阪府働き方改革推進支援・賃金相談センター 訪問コンサルティング専門家
関西圏雇用労働相談センター 労働相談員

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