社会保険と税金の違い。子ども支援金で現役社労士が思うこと

大阪府茨木市「社会保険労務士法人こころ社労士事務所」の香川昌彦です。
先日「子ども支援金」の負担額(試算)が発表されました。年収600万円の夫婦2人の場合は世帯で月額2000円の負担となるそうです。
金額が高いかどうかは今回の記事では触れません。考えたいのはこの子ども支援金が健康保険料に加算されて徴収されることについての違和感です。

社会保険と税金には違いがあります。厳密ではありませんが、それぞれが持つ役割と特性は異なります。以下にわかりやすく説明します。

社会保険とは

社会保険は、失業、病気、老後などのリスクに備えるための制度です。具体的には、健康保険、年金保険、労働者災害補償保険(労災保険)、雇用保険などがあります。これらは基本的には労働者と事業主が共同で負担します。

社会保険は何に使われるか

社会保険料は、加入者が将来直面する可能性のあるリスクに対処するための資金として使われます。例えば、健康保険料は病気やけがの際の医療費用の一部を補助し、年金保険料は老後・障害を負ったとき・配偶者が亡くなったときの生活費を支えるために使われます。

社会保険と受益者負担

社会保険の特徴の一つは、「受益者負担」の原則です。つまり、保険料を支払っている人が将来的にはその恩恵を受けることができるという仕組みです。これにより、自己や家族の健康や将来の安全を守ることができます。

税金とは

税金は、国や地方公共団体がその財源として徴収するお金です。消費税、所得税、法人税などさまざまな種類があります。

税金は何に使われるか

税金は公共のサービスや社会基盤の整備、教育や防衛など、国民全体のためのさまざまな公共事業に使われます。また、福祉や医療、災害対策などの公共サービスの提供にも活用されます。

税金と受益者負担

税金の場合、「受益者負担」の原則が直接適用されるわけではありません。税金は、収入や消費などに基づいて一定のルールに従って徴収され、徴収された税金は社会全体のために使われます。したがって、直接的に税金を支払った人がその恩恵を受けるわけではなく、社会全体がその恩恵を享受します。

子ども支援金とは

少子化対策に使われる、国民の新たな負担です。詳細は決まっていません。

何に使われるか

子どもを産みやすい社会、子どもを育てやすい社会を創ることです。

子ども支援金と受益者負担

日本全体として、人口の下支えとして社会全体のために使われます。直接的な受益者は将来子どもを持つ方、今子育てをしている方になります。一方、子どもを持つ予定の無い方にとっては直接的な恩恵はありません。

子ども支援金は社会保険か?

ここからは私の考えで議論の余地があるかと思います。正解とか不正解とはない話です。社労士会全体の考えではないことをあらかじめ伝えておきます。

政府は、子ども支援金制度について「全世代が子育て世帯を支える、新しい分かち合い・連帯の仕組み」と説明しています。これは税金の性質に当てはまるのではないかと考えるのです。子育て支援は非常に重要です。それには異論のある方はいないと思います。

問題は集め方です。社会保険と税金の話に戻すと、そもそも論として国は社会保険と税金には違いがあるから、わざわざ制度として分けていると思うのです。給与明細でも源泉所得税・住民税という税金と、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料という社会保険に分かれています。

社長や社員さんに税金と社会保険の違いを聞かれたときは受益者負担のことと、社会保険料は会社も負担しているということを説明します。

子ども支援金を社会保険料として徴収するとその原則が崩れると思うのです。税金と社会保険を分けている意味が無くなります。私たち社労士などの専門家以外の方は税金と社会保険の違いを明確に意識していないという前提で「集めやすい」という方法論だけで社会保険として徴収するのでは?と思ってしまいます。

繰り返しになりますが、子ども支援金そのものを批判しているわけではありません。必要だと考えています。ただ、徴収しやすいという観点だけから今回の制度を導入すると、社会保障制度そのものの建付けが揺らいでくるのではないか、と危惧しているのです。

日本全体を支えるルールとして税金と社会保険は成り立ってきました。その制度設計の歴史を歪めてしまうような方法にはどうしても賛成しかねるのです。

まとめ

社会保険と税金はどちらも私たちの生活を支える重要な財源ですが、その性質や使われ方には大きな違いがあります。社会保険は特定の個々に結びついたリスクに備えるためのもので、主に加入者のために使われます。一方、税金は国や地域社会のためのさまざまな公共サービスや事業の資金として使われ、全国民がその恩恵を受けることができます。

子ども支援金の金額そのものだけではなく、誰がどうやって負担するか、方法論だけでなく本質的な議論が必要なのではないでしょうか?

日本の社会保障制度の岐路に立っているといっても過言ではないでしょう。

 

香川 昌彦

香川 昌彦

社会保険労務士法人こころ社労士事務所 代表
全国社会保険労務士連合会(登録番号第27190133号)
大阪府社会保険労務士会(会員番号第22072号)
大阪府中小企業家同友会 三島支部 情報化広報委員長
一般社団法人即戦力 理事
茨木商工会議所専門家相談事業 相談員
大阪府働き方改革推進支援・賃金相談センター 訪問コンサルティング専門家
関西圏雇用労働相談センター 労働相談員

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